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名古屋大学大学院・生命農学研究科・生命共生学分野 高倍鉄子 教授

日時: 2008.10.10 11:32

[分野・研究室名称] 名古屋大学大学院・生命農学研究科・生物圏資源学専攻・生命共生学分野 高倍鉄子 教授
[研究内容紹介] 植物の耐塩性および耐乾燥性機構の解明〜植物の耐性強化に向けて
1980年代に入って、アジア、湾岸地域、アフリカ、アメリカ等で熱帯林を伐採したり、過放牧で地表面を覆っていた植物がなくなり、乾燥が進み、砂漠化という現象が世界中で報告されるようになった。また、乾燥した土地で農業に水を多量に使うと地中の塩を溶かして地表面に塩の蓄積がおこり(図1)、農業が出来ない土地が拡大した。私たちはこれを塩砂漠と呼んでいる。単なる乾燥なら水をどこかから持ってきて、灌漑を行えばよいが、塩分の集積はさらにやっかいである。
 塩は浸透圧ストレスやイオンストレスとなって植物の生育を阻害し、ひどい場合は枯らす(図2)。私たちは自然界で塩分濃度の高いところで生育している植物が浸透圧の調節と酵素や膜の安定化のために蓄積している、グリシンベタインという化合物(アミノ酸のグリシンのNにメチル基が3個ついたもの)に着目して研究を行ってきた(図3上)。塩害に非常に弱いイネに外から微量のグリシンベタインを添加すると耐塩性が向上するという知見も得た(図3下)。
 以上の知見から、植物のグリシンベタイン合成経路をまず明らかにしようとした。先行研究としてアカザ科(ホウレンソウやアッケシ草)では、グリシンベタインは葉緑体で合成されることが報告された。私たちはイネ科のオオムギを材料として研究を行った結果、サイトソルで合成されるのではと予想される知見をこれまでに得てきている(図4)。植物の種によって、グリシンベタインを合成する細胞内の場所が異なるのは不思議である。さらにオオムギのどの組織で合成しているのかをしらべたところ、葉の導管付近の柔組織で合成されていることが明らかになった(図5)。導管は植物が水を運ぶ重要な組織であり、重要な組織を重点的に守ることが判明した。最初私たちは光合成をするどの細胞でも蓄積しているのではと漠然と考えてきたが、植物はしっかり節約してストレスに対応する様子が伺えて感銘を受けた。その他にも塩を細胞内に極力入れないようにする新奇遺伝子の機能解析(図6)、グリシンベタイン合成の前段階でおこるメチル化反応に関与する遺伝子の機能解析の研究(図7)、死海で生育する藍藻の遺伝子を花粉をつくらないポプラに導入し、塩と乾燥ストレスに強いポプラを作出した(図8)。このポプラは中国やモンゴルの砂漠化に歯止めをかける目的で作出したものである。
 最近の非常に暑い日本の夏を考えると砂漠化や塩砂漠化も起きても不思議ではなくなったと思うのは私の勝手な思い込みなのであろうか? 事実、日本には約300種の絶滅危惧樹木があることが報告されている。静かに砂漠化が忍び寄っているのかもしれない。
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